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夕顔

第1章 いい女は毛穴からして違う




天気の良い日だった。
小鳥たちも気持ちよさそうに過ごしている。

同じ空の下、まさか自分の雇い主が小汚い子供と揉めているなどとは露知らず。志村新八は、万事屋の大家であり、スナックを下で営んでいるお登勢のつかいでスーパーに来ていた。

「お登勢さんに頼まれていたものはこれで全部だよな。一つでも忘れてたら………絶対にしばかれる。ーーーあっ!」

買った物の入った袋の中を覗きながら自動ドアを抜ける。
頼まれた物を一つずつ思い出しながら下を向いていたせいで、新八はすっかり前方への注意を怠っていた。必然、通行人とぶつかり、抱えていたものを地面にばら撒いてしまった。

「も、申し訳ないです!全然前を見ていなかったもので!!」

お怪我はありませんか?と訊ねる前にその相手は地面に落ちてしまったものを拾うため、すっと下に屈んだ。それに合わせて、ぶつかった拍子に反射的にあげた顔を新八は再び下へ向ける。

「こちらこそ。割れ物は無かっただろうか。」

女性だった。
この晴天の空に似合う凛と澄んだ声。
しかし、それとは対称的な真っ黒の番傘を彼女はさしていた。彼女が自分とぶつかってしまった原因はこれだろうと思う。こんな天気の良い日に傘なんて、と思ったが、女性ならば日焼けを気にして日差しの強い日に傘をさすなんてことはよくある事だ。
ふと傘の端から見えた、物を拾う異様なまでに色の白い手。見知った怪力娘のことを思い出したが、すぐさま屈んで落とした物を遅れながらも拾い始めた。

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