第38章 HLHI Ⅳ〈遠坂 雪音〉

『世の中には、何してもどうにもならない事が沢山ある。その可能性のひとつとして説いてるだけ』

段々と京介の足取りが重くなっていく。私のせいだ。

『京介はね、すごく素敵な人だから。強くて、カッコよくて、目標に向かって努力する事を惜しまない素敵な人だから。尚更ね、私の事で縛り付けたくないんだよ』
「俺が」
『ん？』
「俺が覚えていなかったら、誰が、その繋がりを保つんだ」

やっぱり、怖いらしい。私の死は、恐らく彼よりも身近で、それでいて猶予もない。考える時間もくれない。そういうものだ。

『まぁ、これは私のお願いであって、あとは京介の好きなようにしてほしい。私は京介に幸せになってほしい。出来れば私が幸せにしたい。でもそれができない可能性がある。そうなった時、私が京介の幸せを縛り付ける鎖になってしまわないかが心配なんだ』

私の真意は全て今の言葉に詰まっている。結局の所ところ、彼に幸せになって欲しいだけなのだ。幸せの形が偶々一致するのが彼だったから。

「幸せ、か」
『そう。弱気な事言っちゃってごめん。だからって死んでやるつもりはないけどね。これ以上、自分の人生ごちゃごちゃにされちゃたまったもんじゃないし。万が一の話。その万が一についてちゃんとあんたと話したかった』

絶対にあり得ない事じゃないのは知っているから。声に出さなきゃ分からないっていうのは本当だ。

「死ぬつもりなのかと」
『んなわけないじゃん。今が楽しいのにそれほっぽっていけるほど欲がないわけじゃないから』
「そうか」
『それに、これ言いたくはないけど、聞かなかったふりしてね。私以外の女の子に振り向いて欲しくないし』

強欲だ。私を忘れてと言うのに、私以外の見て欲しくないなんて、それは本当はダメな事だ。

「そうならないようにしてくれ」
『任せて。絶対に生きて笑ってたいんだから』

話せて良かった。秋さんに背中を押されていなかったら、こうやって話すこともしなかった。ずっと何も言わないで全てを終えるところだった。

「ああ」
『ありがと。私の話聞いてくれて』
「気にするな。俺も取り乱して悪かった」
『良いよ。原因は私だしね。お互い必要な時間だったでしょう』
「そうだな」

夜の涼しい風が頬を撫でていく。願わくば、私の悪い所を持っていってくれないか。無理だと分かっていても願わずにはいられなかった。