第1章 継子
ふと、意識が浮上した。
鬱蒼と茂る草木と、乾いた土の香り。ざわざわ、葉と葉が擦れる音。虫や鳥の鳴き声。地を這う風の音。遠くで流れる小川の心地よいせせらぎ。日が落ち、月や星が顔を出し始め、遠くの茜色とすぐそばの紺色が混じりあった空。
そして、とくとくと一定に脈打つ自分の鼓動の音。
「…穏やかだなぁ」
これから訪れようとしている夜闇の、非道な“奴ら”の活動時間を前にして、口先だけでぽつりと零した。
…否、非道と言ってしまえば酷いかもしれない。
“奴ら”も元は人。私と同じ、日の下を歩いていた、人間。
なりたくて非道になった者や、なりたくなくても非道にされた者もいる。
まあ、その“奴ら”の詳細は後に話すとして…
私は体が痛い。ものすごく痛い。泣きたいくらいに。
なぜなら、攻撃されてその反動ではね飛ばされてしまったから。
着地の際に受け身はとったものの、長時間にわたる戦闘の中ずっと堪えていた数々の怪我が、疲労が、悲鳴をあげているのだ。
…戦闘、攻撃、と言っても、すべて一種の稽古なのだけれども。
ああほら、元凶の“音”が近づいてきた。
「おーい、生きてっか?」
地面に四肢を投げ出し、呆然と空を見上げたまま肺しか動かしていなかった私を、ニヤニヤと口角を上げて目を細めた顔で空を遮るように真上から見下ろしてきたのは、左目に赤い変わった化粧を施している筋肉で覆われた体をもつ筋肉達磨だ。
…なんて、口を滑らせて吐露してしまったら明日の朝日を拝めないかもしれないから呑み込むけども。
「…少しは手加減してください」
意識が飛びましたよ、一瞬ですけど。と眉間を寄せながら嫌味ったらしく言えば、鬼殺隊の誇る音柱、宇髄天元は大口をあけて笑う。
そして私の手首を掴み、引っ張って体を起こしてくれた。
「俺の攻撃をほぼ直で受けて、黄泉に行かねぇだけで大したもんだよ、お前は」
「…稽古の最中に死んだら、元も子もないじゃないですか」
「だから死なねぇように育ててんだろォが」
「そうですけど…」
手加減ってものを知らないんですか…とぶつくさ言えば、急にくるりと私に背を向けて歩きだした。
「もうそろそろ夕餉の時間だ、あいつらが待ってる。ほら立て、帰るぞ」
「あ、ちょ、待ってくださいよ!」
急いで立ち上がり、慌てて大きな背を追いかけた。
「師範!」