第5章 契約と思惑
ここはフェンの部屋の前、フェンは夜遅くまで葵に魔法を教えている。まあ狸寝入りしている私に顔を近づけなければ、ただの優しい人で終わるのだが……
ただ昨日は気分が悪そうに見えたので少し様子を見に来た。寝ているのならば帰ろうと思いながら、控え気味に声をかける。
コンコン
「夜遅くに申し訳ありません。天月ですが」
返事がないので自分の部屋へ戻るために、歩き出そうとするとガチャッとドアが開き、部屋の中に引き込まれる。
その部屋の中は暗く、寝ていたのだろうかと思い至るが、目の前にいる彼の顔色は悪いせいで少しの不気味さを思えてならない。
文句を言おうと口を開きかけたと同時に、ずしりと肩に重みを感じる。とっさに身をよじるが、背に回されていた腕は離してくれそうにもない。
体に力を入れると余計に体重をかけられ踏ん張るしかない。
「何してるんですか」
「静かに……して……限界……だから」
「こっちも限界なんですけど……」
見るとウチの肩で目を閉じていた彼は、寝息を立て始めている。
今まで何をしていたのだろうか。眠いならさっさと寝てしまえばよかったものを。
(ここに来たのが葵だったらよかったのに、来るんじゃなかった)
苦笑いを零す。
「手放しますよ。もしくは往復ビンタしますよ!」
「天月ちゃんうるさい」
「ならベットに行って寝てくださいよ」
「スー……スー……」
仕方がないのでフェンの腕を自分の肩に乗せ、身体を抱き抱えベッドまで連れていく。巻きついている腕を引き剥がすのに多少苦労したが。
ベットに横たわらせ背を向けるが、不意に手を掴まれた。
「最近帰ってくる時間遅いけど……何してるの?」
「寝ていなかったんですね」
返答がない。見ると寝息を立てていた。
フェンから手を離し何気なくベットの下を覗くと、床にくしゃくしゃと丸めてある紙を見つけた。それを拾いゴミ箱に捨てて、今度こそ部屋を出て行った。
コツコツと広い廊下を歩きながら溜息を吐く
ほとほとフェンには困ったもので、頭痛を治めるように人差し指と中指で額にぐりぐりと押し付けた。
「……っ」
重々しく息を吸って吐く。
いつもならすぐに治る頭痛が治らず、足を止めて歯を噛みしめる。