第3章 青の瞳
楽しげな笑い声が廊下に響き、天月はよくわからないというような顔で今だに笑い続けるヴァイオレットに視線を注ぎ続けた。
「名前は?」
「天月です」
「ふーん。天月ちゃんか……変わった名前ね」
「そうでしょうか」
「天月ちゃんはどこの国出身なの?」
天月は口元に人差し指を立てて、「秘密です」と言った。
「あらー、残念」
……
天月と分かれたヴァイオレットは、カフェテリアにいるフェンに話かけていた。
「それで、本当おもしろかったのよ」
あの黒い瞳は珍しい。この魔界では瞳の色で出身地がわかるが、彼女の瞳の色はどこの国でも見かけたことはなく、ヴァイオレットは悩ましげに両眉を寄せた。
「へえ、そうなんだ。あの子のこと気に入っちゃったみたい?」
「あいつはただの馬鹿なだけだろ」
本から顔を上げたトアがそう吐き捨てる。
「へー、トアくんが話に参加するなんて珍しいね」
ニコリと笑うフェンに不快気に顔を曇らせて視線を本に戻す。
「フェン、もしも葵と天月を泣かせたら許さないわよ」
「怖い怖い」
「…………そんなことできるか」
「トア、何か言った?」
蓑虫のようにマントに包まって寝ていた凛とが顔を上げる。
「なんでもない」
このカフェテリアでは今日も騒がしく、平和に時間が過ぎ去るのであった。
……
前からやってくるガイが視界に入り、天月は一度足を止めて背を向け足早に歩き出す。
「……おい」
「おっ」
「待て!」
かなり強めに肩を掴まれ足を止める。
「なんですか、痛いんですけど」
反目になりながら振り向くと、今やお決まりのセリフを吐き出すガイにうんざりする。
「最近のあの女の様子はどうだ」
「さあ。本人に聞いたらどうですか」
彼に鋭く睨みつけられ笑みが引きつる。
「チッ、もういい」
そういい一瞥もせずにあるいて行ってしまった。
「なんだあいつ」