第2章 美しい嘘つき
右横の天月はいつのまにか寝落ちていた。
「天月さん、天月さん、お酒に変えないと居残りだって」
仕方がないので、リオに疑問を投げかける。
「フェンさんって生徒じゃないの?講義してるけど」
「いや、Sランクの生徒だぞ普通だろ。教える事で学ぶってやつSランクは特別中の特別だからな。フェンはモデアの王子。モデア国、わかるだろ?」
怪しまれないように咄嗟に首を縦に振る。
「葵は目の色からしてモーナス出身だろ?ガイとも知り合いか?」
「知り合いっていうか……」
「知り合いっていうか、なんだ?」
その時終業のベルが鳴る。
「あ、講義終わった」
急にむくっと起きだした天月は、一瞬にして部屋を出て行く。その素早い動きに言葉が出ない。
「え、えっ、えーっ!」
廊下に出て伸びをしながら部屋へ向かうが、こっちに近づいてくる気配がしてめんどうだと息を吐く。
1人の気配から2人になった瞬間、より表情を曇らせる。絶対関わる気は無いようで、すぐさま方向転換して走りだした。
ガイは赤い瞳を瞬かせ、走り遠ざかる背を見送った。
一心不乱に奴から遠ざかるためだけに走っていたせいか道に迷ってしまった。
「ここ、どこ」
ふらふら歩いていると後ろから声をかけられる。
「どうしましたか?」
振り向くとそこには優しそうな少年が立っていた。
「ちょっと迷ったかも」
赤い瞳が天月を移す。
「なら、僕がわかるところまでご案内します」
「……」
「僕アキア、アキア・モーナスです。あなたは?」
「相良天月」
「相良?不思議な名前ですね」
「あ、いえ、相良が名字で、天月が名前です」
「え、あ、すみません」
急いで頭を下げるアキアに困惑する。
「別にいいけど、モーナスって事は、あのアカメの王子様の兄弟だよね?」
「はい、そうですけど……」
「ふーん。じゃあお前も、Sランクさまさまってわけね」
「え、いえいえ、僕は違います。僕はCランクで」
「Cランク。へえー、兄弟の片方は天才でもう片方は出来損ないってわけ」
一瞬言葉が詰まったのかきゅっと唇を結び悲しそうに笑う。
「あ、あはは。そうなんです。実はみんなにも言われてて……」
そんなアキアを一瞥して興味をなくしたのか目を逸らした。