第8章 緊張を解すには?
スーパーに着いてお買い物を終えて、スっと私の手から荷物を攫っていってしまう蛍に驚きつつ、ありがとうを告げて、帰り道をまた2人で歩き出す。
点々と着いた街頭の下を歩いていると、人気の無い感じが少し不気味に見えて、蛍が一緒にいてくれて良かったと思った。
1人だったらきっと怖かった。
『蛍、ありがとね。』
「もうそれさっき聞いたから。」
『ふふっ、だって嬉しかったから。』
「ふーん。」
『蛍、明日頑張ってね。』
「王様と違って僕は庶民だし。でもまぁ、庶民は庶民なりに頑張るよ。」
『ははっ、うん。』
こんなこと言ってるけど、きっと蛍は負けず嫌いだ。
3対3の試合の時も、実はムキになってたの知ってるんだからね。
蛍との間に穏やかに流れる時間が心地好い。
2人の間を吹き抜けた風に髪が靡いて、それを片手で押さえつける。ふと上を見上げると、少し前に見た半月が大分姿を変えて、掛けているのはほんの少しになっていた。
今夜は月が大きく見える。
「また余所見してる。前向いて歩かないと転ぶよ。」
『はーい。』
スーパーは、家のすぐ近くにあるので、スーパーを出てしまえば家まではあっという間だ。
思わぬ形で蛍と夜の散歩をすることになったけれど、申し訳ない気持ちが少しと、楽しかった気持ちが沢山。
少し寂しいなと思いつつ、明日は練習試合で、蛍にはゆっくり休んで欲しいし、私もこの蜂蜜ではちみつレモンを作るという目的がある。
家の門の前で蜂蜜を受け取って、蛍とはさようならだ。
『蛍、本当にありがとね。』
「だからいいってば。·····それより、ちゃんと覚えてるの?こういう時は僕に声かけなよ。わかった?」
『うん。わかった。』
「じゃあね。おやすみ。」
『うん、おやすみ。ゆっくり休んでね。』
「ん。」
蛍が家の中に入っていくのを見守ってから、私も忘れずに郵便受けから回覧板を抜いて持ち帰る。
さて、はちみつレモンを作ろう。
私は、私の出来ることからコツコツと。
明日練習試合をする相手のことも、試合を見てこれからの為にしっかり分析しよう。
大きな月を見上げてから家に入る。
静かな夜に、ガチャりという音が大きく響いた。