第1章 プロローグ
住み慣れた東京を離れてやってきたのは、4月に入ってもまだ寒さの残る宮城県。
中学卒業とともに、父の転勤で移り住んできたここは以前住んでいた所よりも静かで、少し緑色が多い気がした。
桜はまだ、咲いていないみたい。
制服に着替えて、鏡の前に映る自分を眺める。
何となく、気合を入れるために昨晩自分で切った前髪は、その気持ちの現われか、それとも戸惑いからか、はたまた、ただの失敗か。
いつもの前髪の位置よりもだいぶ上でキッチリと切り揃えられてしまっている。
手のひらで、頑張って上から撫で付けてみるけれど
「うーん。」
やっぱり短い。
今日から高校1年生。
元からあまり大人っぽい顔つきなんてしていない。
それなのに、こんなに前髪が短くなってしまって、殊更幼く見えてしまうような気がする。
東京にいる、私の大切な幼なじみ2人は、入学式の朝早々に鏡の前でしょぼくれるこの私を見て何と言うだろうか。
呆れるだろうか、それとも笑うだろうか?
何となく、後者な気がする。
幼なじみ2人の、あのニヤリとした笑顔と、フッと零すような微笑みを落とす顔を思い浮かべると、なんだか少し、胸がキュッと掴まれるような寂しさで不安になる。
あぁ、こんなんじゃダメだ。
しっかりしないと。
今日から当たり前のように両脇に居てくれた、あの2人はいない。
新しく始まる、新天地での高校生活に、膨らむ期待が手のひらいっぱい。
胸を締め付ける不安は、残念ながら両手にいっぱいくらい。
それでも、私の胸を焦がすのは、あの体育館いっぱいに広がる熱情。
指先に当たるあのボールの音。
床を弾いた鋭いスパイクの跳ね返った先。
レシーブを受けて高く上がるボールにその視線。
全部全部、幼なじみ達が教えてくれた。
私の大切な場所。
いる場所は違っても、目指す場所はきっと同じだよね。
今日から烏野高校1年生
私、バレー部のマネージャー、やりたいと思います。