第18章 電話越しの梟
『···痛っ。』
お裁縫は慣れているし、得意な筈なのに珍しく指先に針を少し刺してしまった。指先に出来てしまった小さな赤い粒がこれ以上大きくならないようにすぐにタオルで拭ってから絆創膏で覆う。
やっぱり余所事を考えながら裁縫をするなんて器用なことをしようとしたことが良くなかっただろうかと、目の前のテーブルに広がる色とりどりのフェルト生地を見て思う。
テーブルに準備した紅茶を1口飲んで、ほっと一息。
自室の窓から見える外は、日が長くなってきたとは言えすっかりと暗くなっている。
時計を見ると、まだまだお風呂に入るにも寝るにも早い時間。もう少し、作業を進めてしまいたい。
今日もいつも通り学校の授業と部活を終え、今は家の自室でインターハイ予選前に渡すつもりのお守りを縫っている。
チクチクとひと針ひと針縫っている私の視界の端に映るのは、ユニフォームの形に切り取られた布地の数々。
定番だけれども、少しでも喜んで貰えると良いなと思いながらどんどんと針を布に通していく。
あぁ、そういえば、先日及川さんに貸してもらったDVDはとても参考になったなと思う。
日程的にそろそろトーナメント表も発表されることだろうし、私もそろそろ要注意校を纏めて鵜飼監督に渡さなくては。
今まで春高では、牛島さんのいる白鳥沢学園くらいしか宮城県内の学校は知らなかったけれど、青葉城西を初め宮城県内の学校は他にも強いところが沢山あるなとDVDを見て思った。
特に伊達工業、和久谷南なんかはとても良いチームだった。
チラリと映っていた伊達工業の応援幕の文字”鉄壁”。この学校は応援幕の言葉通り、守備の多彩さが凄かったし上手かった。
この宮城県から代表として行けるのは、東京の3校と違い1校のみ。
これだけ良いチームがあっても、行けるのはたった1校。
どの学校も沢山練習して、インターハイ本戦に駒を進めることを信じている。けれど、どれだけ頑張っても結果は時には無常だということを私はもう知っている。
それでも、私は烏野が勝ち続けて行けると信じたい。
『痛っ、また···。』
余所事を考えてまた刺してしまった。
今度は出血までは至らなかったみたいだ。