第17章 薄紅葵のティータイム
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『いえっ。もう本当に、ご馳走にまでなってしまって、これ以上なんて、ばっ···罰が当たりますっ。』
「罰?罰なんて当たらないよ。及川さんはちゃんを1人で帰すのが心配なんだよ。」
『もう、駅まで送ってもらってしまっていますしっ、もう、本当に大丈夫ですっ。及川さんも、明日から部活があるでしょうし、お家でゆっくり休んで下さいっ。』
「んー。そこまで言うなら。じゃー、ちゃんと家に着いたら及川さんに絶対連絡入れてくれる?」
『はいっ、約束します。』
「わかった、気をつけて帰るんだよ。」
『はいっ。及川さんもお気をつけて。』
結局、DVDを貸してくださいとお願いした私が及川さんのお世話になってしまった。
私の姿が見えなくなるまで手をヒラヒラと振り続けてくれた及川さんの姿を思い出して、なんだか胸がソワソワする。
人見知り、では無いと思うけれど今まで家族や研磨やクロちゃん以外と出かける機会も少なかった為か、こんな風に他校の先輩とお出かけなんて何となく落ち着かないかな、と思っていたのだけれども、そんなことは全然無くて、カフェで過ごした時間が楽しくて浮かれてしまった。
きっとそれは、及川さんの気遣いのお陰かなと思う。
及川さんが上手に会話を繋げてくれるのだ。
だから、気づけば時間が沢山過ぎていて、ティーカップの中身も知らない間に空っぽになっていた。
それに···と、自分の肩にかかっていた鞄を見て持ち手をぎゅっと持ち直す。
及川さんは快く試合のDVDを貸してくれた。
これから家に帰って早速見てみようと思う。宮城県内の高校バレー部はどんなプレイスタイルの選手がいて、どんなチームがあるのだろう。試合の為の調査を抜きにしても、本当に楽しみ。
クロちゃんと一緒に試合のDVDを何度も見直したことをふと思い出す。あの時は、私が何度も何度も巻き戻して同じところを見たりするものだから、クロちゃんは呆れ半分に笑っていたっけ。
空を見上げれば、そろそろ日が落ちて夕方に差し掛かる頃だろうか。空がオレンジに染まって綺麗だ。頬を撫でる風が心地よい。
これから暗くなれば、空はあのハーブティーのような色に染まるのだろう。
何となく頬が緩むのを感じながら、それに気づかない振りをして私は家路を急いだ。