第14章 ベンチに座るということ
side 清水潔子
『潔子先輩、今日もお世話になります。』
「ううん。家でゆっくり休んでね。」
『ありがとうございますっ。』
今日の練習も終わり、私の家への帰り道。
すっかり暗くなった道を2人で歩く。
月が雲に隠れて、明かりが少ない。夜のこの静かな道では街頭の明かりがジジっと音を立てるのがよく聞こえる。
隣を歩く、私よりも低い位置にある頭をフワリと撫でる。
嬉しそうにこちらを向いて微笑む彼女がとても可愛らしい。
今年、男子バレー部のマネージャーとしてここに入ってきた後輩のちゃん。小さくて、ふわふわして可愛い女の子。
私の後をちょこちょこ歩いて着いてきて、熱心にマネージャーの仕事を覚えていく彼女を見て、なんて頼もしい子が入ってきてくれたのかと思った。
彼女が入部してから1ヶ月。
ほんの1ヶ月の間一緒にマネージャーの仕事をしただけだけれど、それでも私は思うところがあった。
公式戦で、マネージャーとして登録出来て、試合中ベンチに入ることが出来るのは1人だけ。私か、ちゃんのどちらかだけだということだ。
私の思うところというのは、このまま私がベンチに入っていても良いのかということ。
この1ヶ月、彼女の行動を見てなんて細やかな気遣いが出来る子なのかと驚いた。
確かに元々、バレーをする人達に関わって、そのサポートをしてきたというのは聞いていた。それにしても、と思う。
私は知っている。
彼女が、テーピングの練習を欠かさないこと。
メンバー1人1人に合わせて、巻き加減を変えてなるべく違和感の少ないようにと努力していることを。
私は知っている。
1人1人に声をかけて、体調に気を配っていること。
士気を高めるために、会話を欠かさないことを。
私は知っている。
部員の練習内容から結果、それに基づいての体のケアや何から何まで、一生懸命にノートに綴って、鵜養監督に進言していること。
インターハイ予選に向けて、相手校のことまで調べようとしていること。
彼女のしているその細やかな気遣いは数えだしたらそれこそ、キリがない程なのだ。