第5章 岸優太の憂鬱
「なんだっけこれ、名前思い出せない」
「ラングドシャだよ。これ、
美味しいお店のやつなんだって」
「んっ、うま!」
口に入れた瞬間、
クッキーの香ばしさとクリームの
甘さが広がった。
頭を使い果たした今の俺らに
染み渡る心地いい、柔らかい甘さ。
それを楽しんでいると、
勝瀬さんは口を開いた。
「そろそろ私、岸くん迎えに
行こうと思うんだけど、二人はこの後
もう一社取材受ける予定だから、
蒲田さんと合流して来てね」
「え、そうなんですか? 俺ら
てっきりもう行けるのかと」
「ごめん、手違いで私もさっき
知ったばっかりなの。蒲田さん今、
セクゾの勝利くんのとこで明日の
打ち合わせしてるから」
取材が終わる頃には、蒲田さんは
俺たちと合流できるから、と
勝瀬さんは言った。
何だか腑に落ちないそれに
神宮寺と首を傾げる。
……正直、岸くんの様子が
気になるから早く向かいたいのが
本音なんだけど。