第1章 はじまり
「あっ、危ない危ない。
忘れるところだった」
ふと、戸棚に置きっ放しに
なっていた小型の注射器を
手に取る。
スカートをめくり上げ、
太腿の内側、付け根の部分に
ひと差し。
上部の赤いボタンをカチリと
押せば、中に入っている黄色い液が
体内に流れ出てくる。
……これは、オメガの発する
アルファ誘発フェロモンを
抑えるための特効薬だ。
強いオーラを放つアルファや、
オメガにとっての
運命の番に出会ったとき、
彼らは瞬時に
フェロモンを放ち惹きつける。
そのフェロモンを、
勘付かれないようにする、
もしくは
出さないようにする
ための対策だった。