第3章 夏幻[R18]
思春期特有の異性に対する興味。
それは男女共に持ち合わせているようで
一番身近な異性がたまたま幼馴染だった。
「あの…す、好きです!つ、付き合って下さい!!」
「……ごめんなさい」
蝉が大合唱をしている中
それに負けない位
一生懸命に伝えてくれた気持ち。
別に好きな人がいるわけじゃないし
付き合ってみたら好きになるかもしれない。
多くはない告白をしてもらう度にそう思うけど
口にするのはいつも6文字の言葉。
この日は特に
五月蝿く鳴き続けている蝉の声が耳に響いて
あの日の事が蘇ってきて
余計に私の心を揺さぶる。
1年前のあの日の出来事が……
高校一年生の夏休み。
夏休みの宿題を手伝って貰う為
成績優秀な幼馴染の部屋へとやってきた。
「焦凍!よろしくお願いします!」
「おお」
ヒーローを目指す幼馴染とは
高校から学校が別々になってはいたけど
習う座学に大差はないようで
普段からも家庭教師さながらに
勉強を見てもらっている。
「そう言えば、焦凍は彼女とかできた?」
「は?」
「高校に入ってからそういう話題聞くことが多くて。焦凍はどうなのかなぁって」
「そういうのは、よくわからねえ」
「じゃあ、キスとかもまだだよね?」
「…はあんのか?」
「ううん。ない。興味はあるけど、先ず相手がいないし」
「なってやろうか?」
「え?」
ノートの上を走っていたペンが急停止して
数字を追いかけていた目が
思わぬ発言をした幼馴染に向くと
見慣れている色違いの双眸が
こちらを見つめていた。
「興味、あるんだろ?」
幼い頃はくりっとした大きな瞳だった。
一体いつの間にこんな切れ長の瞳になったのか。
まるで射抜くような眼差しに
視線を外す事ができない。
「俺が、相手になってやるよ」
さっきは問いかけだった言葉が
返事をする前に決したものとなっている。
見つめ合う視線は徐々に距離を縮め
いくら幼馴染とはいえ
こんな
吐息がかかりそうな
そんな近ーー
(焦凍とキス、してる。)
互いに瞳は閉じることなく
見つめ合ったまま。
窓の外では蝉達がけたたましく鳴き声を上げていた。