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【黒執事】翡翠の少年【BL】

第6章 予兆


 コールは不機嫌だった。何故白鳥宮に得体の知れないドイツ人なんかを踏み込ませたのかと思うと、化粧にも力が入らない。青寮ではないが、白鳥宮には、伝統と似たようなものをコールは感じていた。それを馬鹿で身分も低い……英語さえも話せない者が踏みにじったのだと思うと、殺意が湧く。

……あぁ、落ち着け。
……そんな凡人以下のクズなんか気にする必要ない。
……そうだ、僕には「レドモンド」という存在がいるじゃないか。
……いいか。僕は絶対なんだ。
……絶対、アイツをこの学校から追い出してやる

 そう心の中で呟くと、心の中が晴れた。クスッと悪戯っぽそうに笑うと、コールは再び化粧に取り掛かった。



「グリーンヒル……ふろ……ありがと」
 バスルームから恐る恐る顔を出すと、グリーンヒルはソファの上で口を開けて眠っていた。よく見ると彼の手にはホウキがあり、更によく見ると、彼の部屋は(多少の汚れはあったが)見違えるほど綺麗になっていた。
 いつも威圧感を発して硬く結んだその口が無防備に空いているのを見ると、何故か不思議と笑みが零れた。オールバックは半分崩れ、トレードマークのウェストコートはソファの上に置かれ、少ししわくちゃのシャツとズボンだけの、威圧感を全く発さない彼に少しだけ、恋心のようなものが湧いた。
『ハッ! ななな何考えてんだ俺!』
 急に我に返った。火照った両頬に手を当てながらその場でぐるぐると忙しなく歩き回った。

――きっと気のせいさ
――だって男同士だ! こんな感情あるわけないって!
――あぁもうなんて俺は変な奴なんだ!

 熱い頭をぶんぶん振ると、俺はベッドの上の毛布を取り、眠っている彼の上にかけようとした。思い出したように彼の手にあるホウキを取ろうとすると、彼の手に触れてしまい、更に心臓の音が跳ね上がる。
『ほわ……』思わず変な声が漏れ出て、更に身体中が熱くなる。
 生唾をゴクリと飲み下すと、そのままホウキを壁に立てかけ、彼に毛布を被せた。
 そしてほんの少し。いや、数十分悩んだ末、彼の隣に座り、彼と同じ毛布を被った。彼のもう片方の掌に触れ、また心臓の音が跳ね上がり、落ち着かなかった。俺はそのまま彼の掌に触れたまままぶたを閉じた。
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