第2章 サルミアッキに魅せられて
私の父が連続殺人犯だと知ったのは、私が十三歳の誕生日を迎えた頃だった。
父は私のただ一人の家族だった。
母はもともと身体が弱い人で、自分の命と引き換えに私を産んだのだと、父はベッドの中で幼い私に母との思い出が詰め込まれたアルバムを見せながら語ってくれたのを、今でもよく覚えている。
父方の祖父母は既に他界しており、母方の祖父母とは母が亡くなったことを機に、交流はなくなり存命しているのかすらわからない。
そんな中で父は、私が家族の繋がりというものを感じられる唯一の人物で、幼い頃の私の全てだった。
満月の晩、私が寝静まった頃に、父はいつもどこかへいなくなってしまう。
そのことに初めて気付いたのは、七歳の時。夜中にふと何の前触れもなく目覚めてしまったときだ。
常夜灯の心許ない灯りに照らされ、ぼんやりとした姿しか見えない父は、いつも決まってこう言った。
「ごめんよ、アン。でも、ついてきてはいけないよ。」
跪いて私の目を正面から映し困ったように微笑む父に、どうにか着いていこうと幼い私はゴネたが、父が首を縦に振ることはなかった。
ゴネたところで変わらない父の態度に、幼い私はいつも諦めて一人きりのベッドに戻るのだ。
しかしジュニアハイスクールに入学し、十三歳の誕生日を迎えほんの少し大人になった気がした私は、父の言いつけを破りその背中を追ってしまった。好奇心には勝てなかったのだ。
しとしとと雨の降る夜半。
入り組んだ旧路地を、父に気取られないよう一定の距離を開けて尾行する。一行に気付く様子のない父に、私は父を出し抜いた気分で、得意げになっていた。
ふと旧市街のほうへと姿を消した父をあわてて追うと、古びた屋敷が見えてくる。今は誰も住んでいない、地元の子供たちの間では有名な幽霊屋敷だ。
私がまだ物心つく前にその屋敷に住む一家が惨殺され、それを機に怪しい人影を見たり、何かの呻き声が聞こえるなど噂され、更に後にその屋敷に住んだ家族に次々と不幸が訪れた。現に随分と前に、この屋敷に住んでいた伯爵夫人が亡くなっている。
しかしこの街には不思議な風習があり、そういう不可解な出来事が起こる家は絶対に取り壊さないのだ。何でも、曰く付きで幽霊が出る家は高く売れるのだと。
お陰で今でも残るその屋敷は、心霊スポットとして地元の子供たちの度胸試しの格好の場になっている。