第2章 幕開け
妹の華奢な体を抱き締め、妹の二つ返事に思わず唇の端を吊り上げる煌。それは何とも意地が悪く、同時に欠片すらも品性の感じぬ厭らしい表情だった。
そんな兄の変化に気付く事も無く、大好きな兄の腕に抱かれ幸せそうな笑みを浮かべる雪音。
煌「じゃあ僕も準備を始めないと」
雪音「私、頑張りますねっ」
体を離し、優しく微笑む兄。雪音は昔から兄のこの笑顔が大好きだった。
間近で見ると昔とは成長して男らしくはなったものの、変わらぬ大好きな兄の顔。
雪音は一つ大きく頷くと、子供と見間違う位の幼く明るい笑みを浮かべて見せた。
そんな妹の表情を見ても、兄の卑劣な考えは改心される事は無かった…。
暫くして、夜も遅いという事で雪音は部屋に戻って行った。
煌は妹に上着を預ける際にスラックスのポケットに入れておいた薄型の携帯電話を取り出す、カバーを外し手慣れた様子で液晶画面に指で触れては何処かへ電話を掛ける。
煌「僕だ。被験者が見つかった、お前にも働いて貰うから覚悟しておけ」
それは今まで妹と話していた穏やかで優しい声音からは想像出来ぬ程、真逆とも言えるほど低く緊張を促す様な声音だった。
煌「あ…被験者が誰か?そんなもの、お前が知る必要は無い。どのみちお前は会うだろ?知るのは抱く時で構わない」
さらりと言ってのける言葉は卑劣以外の何物でも無かった。
一方的に通話を切ってしまえば、煌は風呂に入り眠りについた。
次の日。昨日までとは打って代わり、明るく笑う様になった雪音に見送られ、煌は家を出た。
紫月家は約4億円を掛けて建てられた、謂わば豪邸だ。門から家までに距離がある、故に家の玄関近くまで車が入って来られる様な造りになっていた。
玄関近くで待つ車に乗り込むと、煌は淡々と告げる。
煌「昨夜言った通りだ。協力者を集めに行く、お前も来い、野崎」
野崎「畏まりました…社長……」
野崎は雪音と煌の父親である要の秘書を務めていた男だ、今は煌の秘書を務めている。
生真面目で虫も殺せなさそうな、根の優しい穏やかな人物だ。