第9章 スティーブ・ロジャース(MCU/嫉妬)
なにより自分を乱すのは、未だに想い続けている男が至近距離まで迫っているという事で、とどのつまり胸が締め付けられてまともに相手をしていられないのだ。自分の格好良さに無頓着なハンサムはこれだから困る。彼にしてみたら弟を構うようなものなのかもしれないが、愛しいと感じる気持ちを振り回される俺の身にもなって欲しい。
「今回は逃がさない。『あの時』のように邪魔は入らないからな。しっかり説明してもらう」
「せつ、めい」
「何故、サム達と食事をした。僕に黙って」
「……皆とチーズフォンデュを食べたことを怒ってるのか?」
(3)
その日、近隣にちょっとした地震が起きたそうだ。落ちるような激しい縦揺れの後に壁が痺れるくらいの地鳴りが暫く続いたのだという。まさか誰だって原因が人為的なもので、俺に覆い被さる男が壁に拳を叩き付けたからだとは思わないだろう。
「……えっ……スティーブ、あの」
「レイン。もう二度と僕に黙ってフォンデュしないって誓ってくれ」
「フォンデュ」
「……君がサムやバートン、ましてやスタークとフォンデュなんて信じられない……僕ともしたことがないのに」
「……」
――……スティーブはチーズフォンデュになにか恨みでもあるのだろうか。彼らと食事をした事実よりも『チーズフォンデュ』という料理そのものに対して強く反応しているように見える。少なくとも、さも動詞のように料理名を使用する当たりに違和感がある。
「フォンデュ以外の料理がメインなら……良いのか?」
頬を掠めて壁へ伸びる腕の血管を手慰みしながら、肘の内側へこめかみを寄せるように首を傾げて彼の目を覗き込むと、スティーブはハッとしてから「……いや、他の食事の時も必ず同席するから、まずは僕に声を掛けてくれないか。頼む」と項垂れた。
終わり