第9章 スティーブ・ロジャース(MCU/嫉妬)
スティーブを挟まずにサムと一対一で話をしたのは今日が初めてだった。訓練施設の退屈すぎるくらい長い廊下の真ん中でとつぜん声を掛けてきた時は驚きこそしたが、話し始めれば直ぐに明るくて気さくな性格が心象に馴染んだ。彼は俺の昔話に興味を持っていたが、無闇に重く受け止めず至ってシンプルに掘り下げて来ることで俺の警戒心を見事に溶かす。
その中で当たり障りなく『過去の食生活』の話に転じ、「レインは現代の食事で何が気になるのか」という疑問を話題に挙げてきた。そういえばあまり気にした事がなかったなどと素直に言うのも憚られて返答に困窮した俺は、手元の雑誌で特集を組まれていた『チーズ』を適当に答えとした。
それを真に受けたサムは高級過ぎない素晴らしい水準の味を誇るレストランをその日の内に予約してくれたわけだが、何故かそこにはトニーもクリントもいて落ち着いた食事は期待できなかった。
けれど、仲間と賑やかに摂る食事のなんと楽しいことだったろう。悪態もつくし冗談も言い合う、笑顔で肩を組んでチアーズまでもする……友人らしい友人を望めなかったティーンの頃には出来なかった事をまとめて体験したような幸福に包まれて、身も心も満たされた夜だった。
→