第6章 スコット・ラング(MCU/AoU後 AM)
「マジかよ」
「ん?」
カラフルなアイスクリームが山ほど並ぶ冷却ケースを覗き込んでいると、男性店員が急に素っ頓狂な声を上げた。尤も、客に対して相応しくない台詞だったが言い放った方は無意識だったらしい。驚いた表情を隠しもしていない。
スティーブも俺も戦闘服を身に纏う時は顔の半分を覆っているが、見る人が見れば私服姿でも誰だか分かるらしいので、この店員もそのくちだと思った。
キャプテン・アメリカのサイドキックという立場において注目を集める事には慣れている。とはいえ興味の引くものに夢中なあまり業務を怠る事を是とはしない。目の前で淡白に指を鳴らすと、店員はハッとしてから慌てて身形を整えた。ああ、それでいい。仕事をしてくれ。
「コレとコレと二つずつ貰えるかな。土産だから保冷剤も頼みたい」
「あ、あの!」
「……」
気を取り直して冷却ケースのガラス面に指を突き立てながらナターシャに頼まれていたアイスクリームを注文すれば、あろうことかその手を力強く握り込まれた。驚く間もなく握手より丁寧に包まれた手を注視する。
しっとりと汗ばんで震える掌から、どうしようもないほどの興奮が伝わってきた。見た目の年齢は彼の方が上に見えるが、子供のような曇りのない瞳をきらきらと輝かせて満面の笑みを向けられてしまったら無碍には出来ない。
(仕方ない……)
(2)
あと五分でバイトも終わりなんだと捲し立てる彼の言葉に少しだけ辟易する。つまり『待て』って事か。話をしたいから俺に待てと。購入済みのアイスクリームは店舗で管理しておくと用意周到な先手を打たれてしまえば断る気も無くす。溜め息混じりで了承に頷けば、彼は一層嬉しそうに微笑みを噛んだ。憎めない優しい笑顔がいたたまれない。俺が約束を反故にして帰ってしまうとは思わないのだろうか。人が良過ぎだ。なんだか身近な想い人を想起させる。
イートインスペースの端を借りて待っていれば、バックヤードと思しきドアから私服姿の彼が飛び出してきた。決して派手ではない見た目に似合ったシックな色合いの服装を見て天を仰いだ。何から何まで想像通りな男で思わず口角が上がる。ド派手な上着でも羽織って現れたって誰も文句は言わないのに。
初対面の時分より好感を募らせている自覚はあったが、俺を待たせてまで何をするのかによっては『ただの民間人』からの枠から外れないだろう。
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