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星条旗のショアライン

第4章 【長編】スティーブ・ロジャース(MCU/WS)



世界が羨むレディシュを肩からうるりと流すナターシャがバックミラー越しにちらりと俺を見る。美しい女性の微笑みというものは特別な好意を抱いていない男であろうと胸が高鳴るものだ。車高が低めに改造されたC7型シボレー・コルベットにおいて、肉体的な窮屈さに喘ぎながら追い打ちをかけてくるような肩身の狭い話題のさなかでなければ。
「やあね。私はあなたの恋を応援してるのよ」
「ナターシャ、運転に集中してくれ」
「意外とヒストリーチャンネルも好きなの」
「あのなぁ……」
「着いた」
「……」
この切り替えの速さときたら。移動中に散々からかって愉しんでいた癖に。ナターシャは目的地が見えるなり悪戯っぽく一瞥を投げ、艶のある髪を首に巻いて正面に向き直るとハンドルを切って路肩に幅寄せする。緩やかに減速しているのにステアリングがビビッドに反応して思っていたより身体が揺れた。
スモークが薄く焚かれた窓ガラスの向こうに見知らぬ男性と談笑するスティーブの姿がある。今朝がた部屋を出た時と同じグレーのシャツに濃紺のジーンズも、あそこまで逞しい筋肉に着られていては今にも引き裂けそうで見ていて気の毒に思えてくるくらいだった。
しかしあの体格を持ちながら毎朝のランニングが日課とは本当に見上げた奴だ。お陰でこうして直ぐに居場所が分かる訳だけど。俺が溜め息をついてコーヒーを一口含むのとほぼ同時にナターシャは助手席の窓ガラスを下げた。
「ねえ、そこの人。スミソニアン博物館はどっち? 二つ目の化石を拾いに来たんだけど」
「よく言うよ」
助手席に乗り込んだスティーブは吐息混じりの失笑を一つ噛み、シートベルトを通しながら俺を振り返る。外で見送っている男性がナターシャに「やあ、どうも」と挨拶をしている傍らでスティーブも俺に「おはよう」と囁きながら眦を甘やかした。

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