第23章 カート・ヴォーン(CABIN/R15)
「カートッ、キャビンの方向は分かるのかっ?!」
「分かる! お前の目印を消した俺の痕が残ってる!」
「……」
ああそうか……確かにそうだ。僕の小さな目印をあんな風にしたって更に大きな目印が出来るだけだった。黒板に書かれた石灰石の文字を消すわけじゃない。痕跡に痕跡を重ねただけだ。草木を掻き分けて木を避けて、土塊を巻き上げながらキャビンを目指す。皆にあの化け物のことを伝えないと。背後からは鎖を鳴らして追いかけて来る奴がいる。振り切るのが先か、キャビンに着くのが先か。
(5)
「カート! 追い付かれる!」
「なんでだっ、あいつは歩いて……俺は走ってるんだぞっ!」
まさに言葉の通りだ。ゾンビは森を熟知しているのかカートがどんなに全速力で泥濘を駆けても直ぐに追い付かれる。少し姿を消したかと思えば次の瞬間には真横からトラバサミが飛んでくるし、運良くそれを避けてもまた真後ろに付かれて距離を詰められるのだ。
それを何度も繰り返す内にとうとう鎖を振り回せば届く圏内に僕達が入ってしまった。あの得物が真っ先にカートの脚を狙えば一網打尽、僕の腕を噛んでもカートの背中を再び噛んでも結局は同じことだ。
(……)
もうカートには僕を抱えて走るだけの体力が残されていない。背中の傷が身体中を熱く燃え盛らせ、滝のような汗をかかせている。このまま二人とも殺されるくらいなら、選ばないと。……彼が助かる道か、僕が助かる道か。
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