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星条旗のショアライン

第16章 【2019年版】Xmas③(MCU/蛛and医)



(5)

クイーンズはニューヨーク市を五つに分ける行政区画の内のひとつで最も東に位置する街だ。観光客が頻繁に訪れる賑やかな街だが、ブルックリンに次いで二番目に人口が多い事からも読み取れるように民間の広域な居住地でもある。
近年になってクイーンズが栄え始めた理由は多々あれど、やはり列挙の先頭を往くのは居住地域と観光地域が適当な交わり方をしている事だろう。巨大な商業ビル群を抜けてひとたび裏手へ足を踏み入れれば住宅やメゾネットタイプのアパートメントが整然と立ち並び、閑静な住宅地かと思えば客で溢れ返る老舗のカフェがあったりする。だから地域全体へ満遍なく人々が赴いて活気付き潤っていくのだろう。目的地であるアストリアの名店もやはり、身の丈が高い住宅ビルの狭間に位置する店だった。
(ナターシャのメモがないと店の名前すら知らずにいたな)
――友人の善意だけを含み込んだ紙面をしみじみと見詰めていた俺は、この時にはまだインターネット上に存在するというレビューサイトなるものの存在を知らずにいたが、認知してから利用するまでは案外早かった。あれは便利だとスティーブに勧めてみた事もあったが、彼は俺より融通の利かない性格をしていて「血の通わない電子の文字より口伝の方が印象が良い」と微笑みながら苦いものを噛んでいたので、それ以降はひとりで出かける時のみ利用している。どのような形であれ正確な情報を得られるのならばそれに超したことはないだろうとは俺の持論だ。
(おっと、ここか)
メモとマップに落としていた視線を上げ、目が覚めるような青いひさしが特徴的な真新しい造りのベーグル専門店の前で足を止める。店構えはマンハッタンの店と真逆で全面ガラス張りな為に店内が怖いくらい良く見えた。時間にしてブランチのタイミングということもあり、軽食を買い求める客でいっぱいだ。
少しだけ入店を躊躇う程の人混みではあったけれど、よく見ればしっかりと待機列を成している。入口から見て逆さのU字型に敷かれた列は、入りで注文、抜きで会計をする理想的且つ効率的な型だ。やはり動線が整えられているからなのか客の流れは早かった。最後尾に居た筈の背の高い若者があっという間に列の折り返し手前まで進み、目移りするくらい種類があるベーグルの棚を見上げて吟味し始めている。

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