第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)
(トニーらしいなぁ)
指先ひとつで俺に静止をかけるトニーへ苦笑いを零していれば、控えていたスティーブが急に肩を引いてきた。合金の身体を持つ俺でなければ関節を外しかねないような遠慮知らずの力を行使する時は大抵の場合、彼の心がささくれ立ったときだった。見上げると案の定「不機嫌です」と顔に書いてある。
「レイン、やはりスタークを頼るのはよそう」
「どうした」
「不自然だろう。やけに勿体付けてる。会場を貸す代わりに非常識な要求をするつもりだ」
「心配には及ばないさ。それなりの料金は視野に入れている。だから料理は安く済むように……」
そこまで食い下がったところで彼の眉間が呆れたとばかりに跳ね上がる。そのまま目を閉じて頬骨に睫毛の影を落とし込み、首を軽く振る仕草は昔からの癖だ。「そういう意味じゃない」と声を低くして咎められても言いたい事が分からなかった。
「トニーはあれでもビジネスマンだ。下手に足元を見て商談を破談させるようなタイプに見えるか?」
「だからそういう意味じゃないって言ってるだろ。……僕は忠告したからな」
トニーを庇うような発言は燻るスティーブを焚き付けた。すっかり臍を曲げてしまった彼は八つ当たりとばかりにトニーを気色ばんだ胡乱げな瞳で睨み付けると、血管を脈打たせる腕を組み、腰に体重を乗せるように体幹を崩した。
(……困ったな)
実質問題、トニーに思惑があろうがなかろうが会食用の会場は押さえなければ始まらない。俺達の自室に招待する提案を「プライベートは侵されたくない」という理由で却下したのは彼自身なのだから、こうなることくらいは多少の予想がついた気もするが。
「全てを手に入れた男はやっかまれる事もしばしばだ。だが些細な悪意にいちいち耳を貸している暇は無い。レイン、時間が惜しい。本題に入ろうじゃないか」
「……ああ」
毛を逆立たせて敵意を剥き出しにする番犬の二の腕をタップしながら宥めていると、今しがたキッチンを離れたらしいトニーから居丈高な印象を抱かせる声が掛かった。彼も彼で無遠慮且つデリカシーに欠けた台詞に意趣返しの如く嫌味を言い放つものだから、完璧な温度管理が成された部屋の筈なのに室温が一気に下がった気がする。思わず熱めな吐息をついて白く立ち上るものがないか確認してしまうと、冷静な人工知能が『室温の変化はありません』と淡々と応えてくれた。
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