第13章 〜君とでなければ〜
そんな桜奈をそっと
抱きしめると家康は、
『ねぇ、桜奈どこにも行かないで
ずっと俺の側にいて』と甘えるように言った。
桜奈の気持ちを確かめるように
言葉遊びを始めた。
抱き合い耳元で囁くように会話が始まる。
桜奈は家康の背に手を回して
『家康様が、そう望んで下さる限り
桜奈は、ずっと家康様のお側におります』
『俺が、意地悪言っても?』
『はい』
『俺が、不機嫌でも?』
『はい』
『俺が、わがまま言っても?』
『はい』
『俺が、側室を持っても』
『はい』
『えっ?いいの?』
『はい、一生口はきかないかも
しれませんが、それでよければ』
『何それ、ひどいよね』
『家康様が意地悪を言うからです』
『意地悪でも、側にいてくれるんでしょ?』
『はい。でも意地悪されるのでしたら
私も意地悪になるかと』
『じゃ、俺に他に好きな女ができたら』
『その方となら幸せになれるのですか?』
『もし、そうだって言ったら?』
『桜奈が家康様のお側にいる必要は
なくなりますので家康様の元を去るのみです』
『俺がどっちも大事だから
側にいてほしいと願っても?』
『それは、欲張りです。』
『欲張ったらダメなの?』
『ダメです。』
『なんで?』
『桜奈がきっと変わってしまいます。
家康様が好きでいて下さる桜奈では
いられなくなる。だからいずれ心は
離れます。そんな桜奈を
お見せするくらいなら桜奈は
家康様の元を去ります。
もしかしたら、寂しさのあまり
他の殿方に気持ちが揺れてしまうかも
知れませんし。』
と桜奈の反撃が始まった。
『何それ、絶対許さない!!』
『だって家康様のお側には、新しい
お好きな方がいるのでしょう?
桜奈に飽きて、その方を
好きになるのでしょう?』
『ダメ!絶対ダメ!』の一点張り。
自分が図った策にまたもや自分が溺れる家康。
自分がどれほど桜奈に
惚れているのかと
桜奈には敵わないと言うこと
だけを自覚させられた言葉遊び。
『参りました』と家康。
二人は、おでこをくっつけて
微笑み合う。互いへの想いが揺らがない
からこそできる言葉遊び。
それは、今、交わす口づけほどに甘かった。