第1章 おはよう、息子たち
「ねえ母さん、今日なんだけど」
明るく晴れた週末の朝だった。
兄のリクは深い深い黒桐色の瞳に、自分の母と、そして弟のウミを順番に映してから続ける。
「俺たち、ふたりで出かけようと思って」
「そうなんだ、母さん」
弟のウミは高校でだれも見分けがつかなくて不便だから、と教師に頼み込まれて、校則を犯して明るく染めた髪を揺らした。
「えぇ?!嘘でしょ?!お母さん、今日あんたたちの誕生日だからって、ケーキ頼んで肉も焼こうとしてるのに…」
「ごめん、母さん」
「ごめんね、母さん。でも、今日だからこそ、出かけたいんだ。僕たち」
ありさを見つめる二組の黒桐色が、日の光を受けてキラキラと光った。
「はぁ、わかったわ。いってらっしゃい。
その代わり、明日は必ずよ。お肉悪くなっちゃうから」
「ありがとう、母さん」
「うん、明日は必ずうちにいるよ、母さん」
そうしてすぐに、双子は家を出て行った。
「………」
母親は、薄い紺色の瞳で、はるか遠くなっていく息子たちの背中を見つめ続けていた。