第1章 僕と結婚していただけませんか
「……………」
「おはようございます、お嬢様。とはいえすでにお昼が過ぎておりますが」
翌日ベッドの上で目を覚ましたあたしを出迎えたのは。
昨夜のセクハラ執事。
なんなの、晴れ晴れとした顔しちゃって。
「…………パパ、は?」
「旦那さまでしたら今朝早くに出発なさいました。お嬢様にお会い出来ず、大層残念がっておられましたが」
誰のせいよ、誰の。
「この、インチキ執事!あたしをはじめからパパに会わせるつもりなんてなかったのね」
「左様にございます」
なにが、『左様』だ。
「訴えてやる」
「はい」
「あんたなんて、セクハラで訴えてやる!」
「お嬢様も、楽しんでおられたでしょう?」
「?」
「触れただけでイって、そのまま意識を失われたのでしょう?そんなによかったですか、僕の指は」
何度も言わせて頂きますが!
彼は執事で。
あたしはお嬢様。
いや。
それ以前に。
あれは立派な犯罪です。
なのに。
羞恥に震える体は金魚のように口をパクパクと動かすだけで。
「お嬢様」
「…………何よ」
「着痩せするタイプだったのですね。ますます好きになりました」
「消え失せろ、変態執事」
バン、と。
近くにあったふかふかの枕を、その偏差値の高すぎる顔面へとぶつけようと投げつければ。
ハイセはいとも簡単に片手でそれを受け止めた。