第19章 溝
兵舎に誰もいない日中。
訓練から外れてきた。
アンの部屋を訪ねる。
『俺だ。
様子はどうだ。』
応答はない。
『アン。大丈夫か。』
名前を呼んだ時だった。
ドアノブがカチャッと動いた。
『兵長…。』
少し開いたドアから、か細い声と、
すっかりヤツレタ姿のアンがいた。
『おい。本当に大丈夫なのか。』
『大丈夫です…。』
あんなに元気だったせいか、物凄いギャップを感じる。
『ずっと、部屋にいるんだろ。
外に出た方がいい。』
『でも…1人じゃ怖くて…。』
話を聞くと、どうやら男の恐怖症になり、
女同士だけでも不安だったと。
本人は外へ出たい気持ちはあったそうだ。
『どこへ行きたい。』
『え…。』
『どこへ行きたい、連れて行ってやる。』
『兵長が私を…?!』
『そうだ。』
『本当ですか?!』
『ああ。』
沈んでいた顔が少し明るくなった。
『街へ行きたいです。』