第2章 お引越し
「さあどうぞ、上がってください。」
安室はそう言いながら鍵をかけ、自らも靴を脱ぎ、飲む支度を始めた。
みなとは生活感のないその部屋をキョロキョロと見回した。
「何もなくて見回しても面白くないでしょう?」
安室に笑いながら声をかけられ、はっとした。
『ごめんなさい、人の部屋を見回すなんて失礼ですよね、つい。』
気にしなくていい、と笑いながらワインを注ぐ安室。
「では、乾杯しましょうか。お引越し祝いに」
そう言うとワインを傾け、乾杯をする。
みなとが一口飲んだことを確認すると安室もワインに口を付けた。
それから2人は色々な話をした。
フランスの話、小五郎の話、みなと自身の話。
だんだんと自分ばかりが話していることに気が付いたみなとは安室のことについて尋ねてみた。
『私ばかりじゃなくて、安室さんの話も聞きたいです!』
「いいんですよ、僕の話なんて面白くありませんから。」
そう言って笑う安室を見ていると、少し瞼が重くなってきたことを感じた。
『(おかしいな、いつもこれぐらいじゃ酔わないのに……)』
瞼が閉じられる瞬間、目の前に安室の顔が見え、安室の少し低い声が聞こえた。
「いけないな…男の家で眠ってしまうなんて…襲われても文句を言えない。」