第2章 ✼藤✼
これは、結と謙信の想いが通じ合ってから少し経った頃……
§ 謙信Side §
「退屈だ」
パチンッ……──
「俺と将棋を指しているだろう」
パチンッ……──
「退屈しのぎにもならんな」
パチンッ……──
静かな部屋に将棋を指す音だけが響く。
「天女と会ってからはその言葉を聞いていなかったんだがな」
「その結がいないのだから退屈だと言っている」
結と恋仲になってからどの位の時間が経っただろうか。
そこまで長い時間は経っていない。
だが、その間結はずっと俺の傍にいた。
こうやって居なくなってみるとやはり何か物足りない。
「結も織田家ゆかりの姫となっているからな。正式に婚姻でも結ぶかしないと直ぐに結とは暮らせない」
そんな事は分かっている……
今まで城に置いていたのはあくまで人質として。
人質を取る必要がなくなった今結を安土城に返さなければならない事も全部分かっていた事だ。
「そんなに一緒に居たければ返さなければ良かっただろう」
そう言いながら、指先で将棋の駒を弄ぶ信玄。
「理由くらい分かっているだろう」
俺が不機嫌に眉を顰(ひそ)めると、信玄は弄んでいた駒を将棋盤の上に置きながら笑った。
「ははっ。以前のお前ならば閉じ込めてでも結を傍に置いただろうに…結が帰りたがっているから帰してやるなど、随分丸くなったじゃないか」
「煩い。斬るぞ」
その言葉に、俺はひと月ほど前の出来事を思い出していた——