第11章 偽り
翌日、広間で家康と黒陽は対面していた。そこには光秀とさえりの姿もあった。
「黒陽殿、昨夜のもてなし感謝します。信長様にはしっかり報告しますので」
「喜んで頂けたのであれば何よりです」
黒陽の笑顔はどこか胡散臭くて、さえりは不快に感じていた。胡散臭いと言えば光秀もだが根本的に何か違う。味方だからかな、とさえりは思った。
ただ、ここで見る光秀の目は鋭く、触れたら切れそうな雰囲気を纏っていた。これが武将の顔なのか。さえりは昨日から話しかけられずにいた。
「ところで」
家康が切り出す。
「黒陽殿に謀反の噂があるが真でしょうか」
「何を仰いますやら徳川殿。昨日の手厚いもてなしを見ればわかるでしょう。徳川殿ともあろうお方が、噂話を本気にするとは情けない」
黒陽がまくし立てた。人は嘘を付くとき饒舌になるというが。
「では、これは?」
家康は懐から紙を取りだし、黒陽に見せた。それは光秀と黒陽が交わした密書だった。
「何故それを!」
黒陽が青ざめる。
「内部告発があったようですね」
家康は冷静に答えた。
黒陽は暫く無言だったが、急に、顔を歪めて笑った。
「だがそれでは明智殿も同罪だろう!」
声をあらげる。
さえりは青ざめていた。光秀さんが謀反? そんなはず……ない。だが心臓は嫌な音をたて、冷や汗をかいていく。
すると光秀は家康が示す密書をわざとらしく覗きこんだ。
「なるほど、この筆跡はよく俺に似せてある」
「は?」
「だが、花押が違うな」
「は?」
「あ、本当だ。よく見ると光秀さんのとは違いますね」
「はあああ!?」
どこかとぼけた二人のやり取りに、黒陽は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。