第8章 螺旋記憶ー従兄妹
俺の言葉を聞いて、俯いていた羽奏がゆっくりと顔を上げて、
「っつ!!!」
ボロボロと涙を零して、俺の腕を掴んだ。
「じゃあ、光ちゃんの足頂戴よ!!
私のためなんかに光ちゃんがバレーやんなくていい!そんなのいらない!!」
目覚めたばかりの羽奏が掴んだ腕に力なんて無いようなもので、痛くなんかないけど、羽奏の泣き顔のせいで痛い。
ガシャァン!
思わず一歩下がったら、点滴棒にぶつかって倒してしまった。
「光ちゃん!!!」
倒れた点滴棒にぶつかった花瓶が割れて、破片が俺の足を掠る。
ツゥ、と細く垂れた血の赤に動揺したのは俺ではなく羽奏で、真っ青な顔で俺に手を伸ばしてくる。
「大丈夫ですか?」
看護師さんが音を聞きつけてやって来て、倒れた点滴棒と割れた花瓶を見つけて片付けを始める。
「光ちゃん、あの、ごめん、わたし、」
狼狽える羽奏に手を伸ばそうとして、傷口を押さえた際の血が付いていることに気がついて、結局手は引っ込める。
「俺は大丈夫だから気にすんな。俺、一旦帰るな」
そう言って俺は、まだ泣いている羽奏を置いて逃げたんだ。
何を言ったらいいのかなんてわからなくて、言えることなんかなくて、足をあげることも、バレーを辞めることも出来ない俺が、羽奏の側に居ていいのかもわかんなくて、
「ごめん、羽奏」
俺はどうしたってバレーから離れられないんだ。
真っ白な廊下に俺の呟きがさみしく響いた。