第2章 【variation】
今を去る事800余年前、ハイランド地方のある森の中に大きな屋敷が建てられた。その屋敷では毎夜晩餐会が催され、人々は着飾り、屋敷は様々な装飾が施され、屋敷は大賑わいを見せた。
しかし時と共に零落し、人々の足は途絶え、借金の形に装飾品も売られ、屋敷は寂しくなる一方だった。
そこで屋敷の主人は考えた。娘にだけはこの寂しい暮らしをさせたくはないと。その為に、今もなお栄華を極める友人の家の嫡男に、娘を許婚として迎え入れてもらい、ゆくゆくは結婚させようとした。
しかし、娘はそれに猛反対を示した。どうして自分の結婚相手さえも自分で決めてはいけないのかと。父の思惑とは裏腹に、娘は純血主義――魔法使いだけの血統を良しとする考え――から、どんどんと遠ざかっていった。
そしてその娘こと、クリス・グレインは今日も今日とて、クリスマス・プレゼントに貰ったラジオで音楽鑑賞に興じていた。そう、何の因果か娘はマグル大好き・マグル製品大好きっ子に育ってしまったのである。一応、魔法界にもラジオもラジオ局もあるのだが、そっちには目もくれず『マグルが放送している』という理由だけでクリスはマグルのラジオにハマっていた。
「あぁ……やはりマグルの音楽は良い……」
うっとりと、それこそ涎をたらす勢いで音楽に夢中になっているあまり、クリスには部屋をノックする音が聞こえなかった。最初はコン、コンと2回。それからコン、コン、コンと3回。間を開けて――コンコンコンコンコンと5回鳴らしても反応が無かったので、その屋敷に住む屋敷しもべのチャンドラーは勢いよく扉を開けた。
「お嬢さまーーーー!!!!いったい何度ノックしたら気が付くのですか?あああぁぁ、またマグルなんかの作った製品に耳を傾けて!良いですかお嬢様、ご主人様が何も言わなかったから私も目をつぶって来ましたが朝から晩まで耳に栓をして汚らわしいマグルの音楽を聴くなど、お嬢さまはグレイン家の人間としての自覚が足りません!」
「耳に栓をしているんじゃない、これは『イヤホン』と言うマグルの機械だ。あぁ……これを耳に当てるだけでまるで頭の中で音楽が鳴っている様な気がするから、マグル製品は本当に偉大だ」
「偉大だ、じゃありませんっっ!!!!!」