第6章 【許されざる呪文】
「いやぁ、しっかし凄かったよな!!弾む驚異の白ケナガイタチ。出来る事なら一生この目に焼き付けたいくらいだ……」
大広間に戻ると、ロンはソファーに座りながら満足げに瞳を閉じた。きっと彼の瞼の裏には今でもケナガイタチに変えられたドラコが、ムーディ先生によって上下に叩きつけられている姿が浮かんでいるんだろう。
ロンだけじゃない、その場に居たグリフィンドール生は、こぞってその話をしている。していないのはクリス位なものだ。
クリスは終始ムスッとした顔で、暖炉の前のソファーを陣取ってお気に入りの“人生の役に立たなさそうな本”を読んでいる。ちなみに今読んでいるのは『外国人の扱い方~ギリシャ人編~』だ。
しかしお気に入りの本でさえ、今のクリスの怒りを抑えてくれるようなものはなかった。みんな相手がドラコだったから笑い話にしているけど、これが同じ寮の人間だったら、どんなに腹を立てていいるか。皆想像すらしていないだろうが、ムーディの行った事は紛れもない虐待だ。
「バカばっかだ……」
そう独りごちると、クリスは本の内容に没頭しようと務めた。しかし本に集中しようとすればするほど、ロン達が騒いでいるのが気になり、集中出来ない。嫌でもあのドラコが痛めつけられている姿が甦る。
こう言う時、公正な判断を下してくれるハーマイオニーがいたらロンにピシャリと一発言ってくれるだろうが、生憎いま彼女は図書館で何やら調べもの中だ。昼食同様、夕飯をものすごい勢いで掻っ込むと飛んでいく様に図書館へと行ってしまった。
「マジで凄かったぜ!あのマルフォイが、ボン!ボン!って弾むんだぜ!マジであの時はスカッとしたぜムーディ先生様々だ!!」
「はッ!それじゃあ今度お前が何か罰をした時、ムーディ先生に頼んで同じ目に遭わせてもらえるよう進言しておいてやるよ」
ついに――それでなくとも細い――クリスの堪忍袋の緒がキレた。本から目を離し、鼻で笑いつつも、独特の赤い眼でムーディ信者の3年生を睨みつけている。
3年生はビビッて、クリスに背を向けてコソコソと話し始めた。その時、小さく「許婚だから」と聞こえた。クリスは手にしていた本を3年生に向かって思いっきり投げつけた。