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先生とわたしの恋物語

第7章 旅行


「田中先生、ありがとうございます。さすがに今回の分は払いますよ。ほぼ8割以上がわたしの分ですし」


赤い夕日が差し込む。旅館へ戻る帰り道に、わたしは財布から千円札を数えて、田中先生に差し出した。

「しまえよ」と田中先生は手で拒否をするのだ。困ったのは、わたしのほうだ。


「えーー!いやいや頼みますから受け取ってくださいよーー!!コレはダメですって!」

「学生からお金なんて受け取れねーし。あーー、いーらーなーい。ほらほら貯金しとけ」

「うーー……じゃ、じゃあ!!どこかで、なにかで、お返ししますね」と口を尖らせて、仕方なく財布にお金をしまって鞄に戻した。なぜ頑なに拒むのか。



「ああ、楽しみにしとく」と意味ありげに言うのだ。

「できる範囲で、ですよ?」

わたしが念押しすると「ふ…」と小さく笑った。

「先生、つないでいいですか?」
「ん?許可がいるのか?」

わたしはクスクス笑った。田中先生の手をそっと握った。

許可なく握れるって凄いことだよって、だれかが、教えてあげてほしいよ。許可はいるんだよ。普通は。



「ま、お返し期待してるわ」と言って、握り返してくれて。片方は、わたしのお土産荷物を持ってくれている。



「……楽しかったな」

「ハイ!いい思い出が作れて嬉しかったです。ありがとうございました」


「そう……だな」

田中先生の声がほんの少し低かったことを、そのとき気にも止めなかった。

なんて言えば正解だったんだろうね……。

わたしは先生の小さなサインを
まったくそのとき、気づかなかった。



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