第72章 悪夢を
「れ、零・・・っ!」
「く・・・っ」
今までに無く大きく足場が揺れ、これ以上進むことは状況的に不可能だった。
ここが崩れるのも時間の問題・・・そう思って足元に目をやった瞬間。
「・・・ッ!?」
それは自分の想像を遥かに超えて早くやってきた。
目の前で足元に亀裂が入るのが見え、一瞬で崩れると察知した。
それ故か、繋いでいた手を無意識に離して彼を突き放すと、その瞬間には私の方の足場がバラバラと崩れ始めた。
「ひなたッ!!」
崩れる瓦礫に包まれながら、彼が名前を呼ぶのが聞こえた。
それを聞いて、彼を巻き込まずに済んだのだと安心できて。
「・・・う、ぁ・・・ッ」
そのまま数メートル下の別の足場に体が打ち付けられると、衝撃で呻き声が漏れた。
それは、痛い、なんてものではなくて。
「ひなたっ、返事をしろ!ひなた!!」
彼の声はきちんと聞こえた。
けれど全身を強く打ち付けたせいで、声は愚か、息すらまともにできなかった。
「・・・ッ・・・」
暫く痛みで顔を歪めたが、少しでも体が動くことが分かると、鞭打ってその体を起こした。
「れ・・・っ」
そして彼の名前を呼ぼうと声を出し掛けた時、まさに彼がさっきまでいた所が勢いよく崩壊していくのを、目にしてしまって。
「零・・・!?」
叫んだつもりでも、それは掠れたハリのない声でしか出てこなかった。
姿こそ見えなかったものの、もしあれに巻き込まれていたら・・・。
そう思うと、一気に血の気が引いて冷や汗が流れた。
・・・いや。
私もこうやって無事だった。
彼が無事じゃないはずがない。
根拠は無いのに無駄に自信だけはあって。
それでも半ば言い聞かせるように、彼は大丈夫だと心の中で繰り返した。
「・・・っ」
銃撃が続く中で何とか立ち上がるが、この巨大な観覧車もあれだけの爆弾に耐え切れるほど強くは無くて。
残された爆弾が連鎖で爆発していくと、本格的な観覧車の崩壊が着実に進んでいった。