第117章 安室3
「では、友人宅から自宅へ戻る前には必ず連絡くださいね。それと、毛利探偵事務所に着いてからも連絡ください」
本当は、このまま事務所に連れ帰りたいが。
それはどちらかと言うと私情だ。
沖矢昴との関係性をもう少し探るには、こうする方が良いと考えた、が。
「・・・分かりました」
彼女が僅かに見せるその隙は、何なのだろうか。
バーボンの気配を感じ取って尚、僕を安室透として見ている油断なのか。
・・・だとしたら。
「・・・んぅ、ん・・・!」
酷く、舐められたものだ。
「ん、・・・ふっ、んぅ・・・ぁ」
本当に警戒心の欠片もないのだな、と不意打ちで唇を重ね合わせ塞ぐと、彼女の口内に舌を滑り込ませた。
ゆっくりと、意識を他に持っていかせないように。
深く犯すように、舌を絡め合わせた。
その苦しさからか、彼女が僕のテニスウェアを握ったのを確認すると、手に持っていた彼女の着替えへと手を伸ばし、小さな発信機を貼り付けた。
「・・・っん、んぅ・・・っ、は・・・!」
唇を離せば、一気に口から空気を取り込む姿が目に映って。
キスの時の呼吸さえできない。
そんな純粋な彼女に、彼らは何をさせようと言うのだろうか。
・・・僕が言えた立場でもないのだが。
「・・・本当はこれを渡しに来ました」
いつかの口実に、と持ち歩いていたものを、まだ息を整えきれない彼女の手を取り握らせた。
「事務所の新しい鍵です。依頼を受けていないので入ることはないと思いますが、念の為」
これで彼女はどう出るだろうか。
そんな事を思いながら、軽い笑みを向けた。
「物色はやめてくださいね」
「し、しませんよ・・・」
まあ、されても問題は素よりないが。
この鍵は別の意味で彼女に渡したものだから。
「では、また近いうちに」
最後にもう一度、軽く唇を触れさせて。
この歪な関係に名前がつくとすれば、何と言うのだろうか。
何度目か分からない、同じような答えの無い疑問を過ぎらせながら、彼女の記憶には笑顔で残る姿で、その場を後にした。