第114章 安室1※
ーー10章~安室視点
「では、僕は帰りますね」
変な気が起きる前に、早く彼女の前から去りたかった。
警察官である前に、1人の男であることを・・・彼女は。
「あ、待っ・・・!」
分かっていないようだから。
まだ体調が万全でない中、立ち上がろうとした彼女はフラついて倒れそうになった。
それを受け止めると、更に自分の中の何かが動いた気がした。
「・・・無茶はしないと約束したはずですよ」
あくまでも彼女が見ているのは、安室透である僕だ。
勘違いするな。
そう、自分に言い聞かせていると。
彼女は切なそうな瞳で僕を見つめ、僕の服をキュッと握った。
「・・・ひなたさん?」
必死に降谷零である自分を押し殺し、安室透で返事をした。
・・・した、けれど。
「暫く・・・このままじゃ、ダメですか・・・?」
不安そうにこちらを見つめる彼女の目を見て。
冷静という感情が音を立てて崩れていくのを、肌で感じた。
「・・・とりあえず座りましょう」
自分も落ち着かなければならないが、まずは彼女を落ち着かせるのが先だ。
とりあえず彼女を支えながらベッドに座らせると、自分もその隣へと腰掛けた。
俯く彼女を見て、それは不安からなのか、恐怖からなのか、体調のせいなのか・・・今の自分では検討がつかなくて。
少なくとも、彼女から嫌悪の感情は感じられないが。
それが心を許している証拠にはならない。
「ひなたさん」
・・・出会い方が違えば。
柄にもなく、そんなことを考えてしまった。
曇りのない、綺麗な彼女の目を見たくて名前を呼べば、素直にこちらを向いたけれど。
その向けられた瞳に、目を奪われている時だった。
「・・・好き、です」
突然された告白に、彼女の目を見ていた自分の目を見開いてしまった。
その時感じたのは。
「ち、ちち違います・・・!安室さんの・・・っ、め、目が好きという意味で・・・っ!!」
単純的な、嬉しいという感情。
負い目や罪悪感のような感情も、追いかけるように迫ってきたが。
それを弾き飛ばすように、自分の中で何かが切れた音がした。