第110章 キスで※
「・・・・・・」
顔に添えられるように置かれている彼の手を握りながら、目の前にある彼の顔を見下ろして。
綺麗な金髪、整った顔立ち、何でもそつ無くこなす器用な手。
改めてそれらを確認する度、やはり彼が私を選んだことに疑問は残るけれど。
隣に居て、恥ずかしくない人間に近付きたいとは、思う。
「・・・何を考えている?」
「!」
私の肌へと向いていた彼の視線が、突然私の方に向けられたせいで、バチッとその視線が交わって。
スルっと口内に入っていた指を引き抜かれながら、視線は外さないまま顔を近づけられた。
「なに、も・・・」
特別口にする事ではない。
というよりは、恥ずかしくて口にできたものじゃない。
それを隠すように視線を外すと、口元をそっと手の甲で蓋をした。
「・・・嘘だと言っているようなものだな」
「・・・!」
今度は彼に向いた手の平にキスを落とされると、恥ずかしさと追い込まれたような感覚で顔が熱くなって。
「視線を外すし、口元を隠すというのは、そういう事だろ」
・・・何気無い、行動だったのに。
そんなことを考えながら、一連の行動を見られていたなんて。
それは心理的にそういうものなのか、それとも私がそういう行動をしてしまうのか。
自分では判断できないけれど。
「・・・そういう事だよ」
隠せないのなら、開き直るしかない。
「零の事、考えてたの・・・っ」
開き直ってしまえば、多少羞恥が隠れる。
そう、思ったけど。
恥ずかしいものは、どうやったって恥ずかしい。
けれど、それを表情には出さないようにしながら彼に視線を向けた。
「・・・!」
瞬間、目に入ったのは。
何故か顔を真っ赤にして目を丸くする彼の表情で。