第93章 重ねて※

「ン、ぅ･･･ッ！」

そんなの、ズルい。
これは仕返しの域を超えている。

そんな無言の訴えも、彼はものともしてなくて。

「･･･ッ･･･」

零の熱い舌が、指に這っていく。

指の根元から、先まで。

時折口内に含まれては、彼の歯が当たって。

それに何故か呼吸が荒くなって。

苦しくなって。

片手は口を抑えているものの、吐き出す呼吸は明らかに早くなっていた。

「･･･ひなた」

だめ。
そんな声で、呼ばないで。

「零･･･っ」

まるで媚薬でも盛られたように、体が熱い。

今すぐにこの熱をどうにかしたい。

どうすれば良いかなんて分かってるのに。

それを素直にお願いなんてできなくて。

「れ、い･･･っ」

ただ指を舐められているだけ。
それだけなのに。

いや、それだけだから。

「降参か？」

口を覆う方の手にも、キスを落とされて。

まだだ、と首を降った。

「強情だな」

強情にだってなる。

私ばかり、余裕が無くて。
そんな事は無いと彼は言うけれど。

「わざわざ逃げ道を用意したのに、引き返すのか」

既に両手は彼の手によって口元から離され、ベッドへと押し付けられていた。

彼の言う逃げ道というのはきっと、素直に口を開ける事なんだろう。

でもそれは、とても遠回りなものだと思えた。

「近道じゃなかったから･･･」

単純に私からのキスの時に、零が口を開けてくれれば。

なんて理不尽な言い訳をすると、再び彼は悪い笑みを浮かべた。

「そんなの、面白くはないだろ？」

･･･一体、どこから彼の手の中で転がっていたのだろう。

キスを拒んだり止めさせたのは私だけど。
それを逆手に取っていたのか、利用していたのか、それとも最初から読んでいたのか。

どれであろうと間違いないのは、これは･･･全てを見透かしている目だということ。

「んっ、ン･･･！」

唇が触れ合って。

ここを開けろというように、彼の舌がそこを這って。

結局、彼の用意した遠回りな逃げ道を全速力で駆け抜けて、口を開いた。