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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第5章 叶わなくても





一週間前の火曜日。

閉館間際にも関わらず、アッシュは図書館に来てくれた。
アッシュが普段どんな生活をしているかは知らないけれど、きっと色々用事もあるだろうし、忙しかったに違いない。
こんな無理矢理で、果たさなくてもいいような約束を、アッシュは律儀に守り続けてくれている。

アッシュは私がどんなに単純な質問をしても、絶対に馬鹿にすることなく丁寧に教えてくれた。
アッシュの教え方はとても分かりやすかったけれど、すぐに理解出来ない時も分かるまで根気強く付き合ってくれた。

淡々とした口調は、決して冷たくはない。
私はそんなアッシュの話し方がとても好きだ。

アッシュはいつも、タイトルを見るからに難しそうな本を読んでいた。
窓から射し込む光が本を読む彼の髪やまつ毛を照らして、それはもう、息が止まりそうなくらいに綺麗だった。

そんな彼の姿を見る度に、この図書館でアッシュに初めて会った時のこと、そして雪の日に屋上で倒れていた時のことを思い出した。
服装も雰囲気も少し違うけれど、確かにどちらもアッシュなんだ、と思った。

逆に彼の目には、私はどう映っていたのだろう。
首の痣を見られた時、私はどんな顔をしていたのだろう。

・・・知られたくなかった。
ただ穏やかにアッシュとこの図書館で過ごす時間を、私は何よりも守りたかったから。

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