第8章 それぞれの場所
玄関を開けると二人が「おかえりー」って言って笑ってくれた。
「ただいま。二人ともお疲れ。今日早くない?」
「最近残業多いから調整で早く帰れる日は帰れって会社から言われてるの」って美緒が教えてくれた。
ちょっと早いけどもうご飯にしよってことでご飯にすることにした。
「あ、みさきボールペンバッグでいい?」
「うん。ごめんね!ちょっと慌てて忘れてきちゃったの」
食事をしながら北海道で黄瀬君がファンの子に声かけられて写真を撮ったことを話したり、あたしの案でフレグランスのプロジェクトが進む話や、エビがおいしかったから今度みんなで食べに行こうって話をして食事を済ませてから時間を見計らって青峰君に電話する
「ごめんね。ちょっと電話してきていい?」
「「ごゆっくり」」ってにやにやと見送ってもらって寝室に入った。
電話を掛けると2コールで青峰君が出た。いつも思うけど青峰君は電話に出るのが早い。あの反射神経が電話を出るのにも使われてるんだと思う
「もしもし」
「今日は噛まなかったな(笑)」
「もう、あれすっごい恥ずかしかったんだから言わないで」
「もちだろ?」
改めて言われるとちょー恥ずかしい。だってもちもちになっちゃったら赤ちゃんみたいでおかしい。
「ヤダ!もう切る」
ホントは切りたくないくせにこんなことを言う可愛げのないあたし。それに切っていいなんて言われたら自分が落ち込むだけなのに。
「おいっ!もう言わねぇから切んな」
「嘘だよ。切らない」
この電話の一番の目的は青峰君を応援する為なんだからそれをしないうちにあたしから切ったりはしない
「このっ…」
「えへへ。青峰君この間電話ありがとね。」
「いいって。俺はいつも試合前に電話に付き合わせてんだから、お前がなんか話したい時はいつでもかけて来い」
「青峰君ってホント優しいよね」
「……んなことねぇよ(笑)そろそろ出るから切るな」
「うん。行ってらっしゃい。頑張ってね」
「行ってくる」
初めての“行ってくる”の響きが何だかすっごく特別に聞こえた。
いつもはあたしが行ってらっしゃいって言うと“またな”だったのに。
リビングで待つ二人をあんまり待たせる訳にいかないって思って寝室から出たけど間違いだったかも。
聞き出す気満々の二人に捕まった…