第8章 それぞれの場所
side Patrick
今年のNYのコレクションにあたしの弟子であるみさきを呼んだ。
3年前に日本に行かせてからもちょこちょこ仕事で呼んではいたけど、みさきの成長は目を見張るものがあった。
あの子を弟子にして後悔したことは今まで一度もない。唯一あるとすれば、あたしの目の黒いうちにもあの子があたしを追い抜いていくんじゃないかってこと。
コレクションでは私の想定以上の出来を見せてくれた。
あの子の仕事次第でプレゼントしようと決めていたバッグをお店から直接届けてもらうことにしたから担当に連絡を入れた。
『あたしだけど、お願いしておいたものを届けて頂戴。ペニンシュラにいる青峰宛てよ』
『承知いたしました』
電話をして居場所を確認したときに、彼といることはすぐに分かった。
初恋の相手があの青峰大輝とは驚いたけど、あの子が恋をしたということがあたしにとってどれほど嬉しかったか。
深く傷ついて、自分にはもう何もないと涙を流すあの子を思い出すと未だに胸が痛む。
体は元気になっても心の傷は癒えなくて、ずっと恋愛をしていないとタイガからも聞いていた。
少し恥ずかしそうに彼のことを話すみさきは、仕事の時とは全くの別人で本当に可愛らしかった。
それに彼が女と朝を迎えないって言うのは業界では割と有名な話だったのに『彼の部屋で寝た』と言われたときは本当に驚いた。
彼は女が寝ていようがいまいが、自分が出ていくか女に出て行かせるかだって聞いてたから。
彼の方もまんざらではないのかもしれないわね。
彼がみさきを好きにならなかったとしてもそれも経験の一つ。彼がみさきを好きになるなら見る目があると褒めてあげる。
みさきも知らないけど、あたしはあの子があたしのモデルに応募する前に一度だけ見たことがあった。
実際事務所で会うまでは分からなかったけど、事務所でみさきと直接会って骨格を見て確信した。
間違いなくあの時の子
ちょっとした運命みたいなものも感じた。
でもそれだけで弟子にしたんじゃない。
熱意と度胸を買ったから、この子しかいないって直感があったから、ずっと弟子を取らなかったあたしがあの子を弟子にした。