第1章 視線の先
『やっぱりミサキのメイクが最高ね!』
画面で写真をチェックしてアーティストからお褒めの言葉をかけてもらった
『本当にありがとうございます。いつでも来るので是非また呼んで下さい』
フリーで仕事をするという事は営業も自分でしなくてはならない。
技術だけじゃなく、対人スキルも必要で本当に大変な時もあるけど、私を気に入ってくれる人達のために全力で頑張りたいし、何より形になった時の達成感がたまらない。
アメリカでの最後の仕事を終えて実家に帰宅してから大急ぎで日本への帰国の用意をしてるのに…
「セルジオ。こっちおいで」
愛猫のセルジオがキャリーに入って座り込んで、邪魔ばかりするから全然進まない。
「ママー!!あたし今夜の最終便で帰るけど、着いたら連絡するねー」
自分では動かないセルジオを抱き上げて、大声で1階のママに話しかけた。
「もうそれ昨日も聞いたわよ!玲子先生によろしくね。空港まで送るわ」
「え、いいの?パパとディナーは?」
「大丈夫だから用意できたら乗って」
本当はママもわたしに彼氏がいるのかとか、結婚しないのかとか聞きたいんだと思うけど、過去を気にしてか全然聞いてこない。
だからあたしも気付かないふりして甘えてる。
もう26歳だし彼氏くらい作って安心させてあげたいけど、恋愛なんてする気になれない。
邪魔してくるセルジオを何度もキャリーから出して、絶対に持ち帰らなきゃいけないものだけを入れて、なんとかキャリーの蓋を閉めた
両親からの玲子先生へのお祝いも預かったし、出発しなきゃ。
責めるような視線を向けるセルジオを一撫でして車に乗り込んだ。
(今実家でた。式場ついたら連絡するから外まで来てほしい)
(おー。空港まで迎えに行けねーけど気をつけてな)
大我にメッセージをするとすぐに返信がきた。
幼なじみだからか、絵文字も何にもないけどなんかほっとする。
「ママありがと。いってくるね!」
「気をつけてね。仕事頑張ってね。何かあったらいつでも連絡しなさいよ」
機内では新作の映画でも見ようと思ったのに、強行スケジュールのせいか思ったよりも疲れていて、シートベルト着用ランプが消えるなりあっという間に深い眠りに落ちていた。