第14章 失ったもの
庭に続く木の扉を開けた私は、カカシよりも先に歩いていた。
「っ!!」
石段の上をゆっくり歩いていたのに、ある物に気づいた私は小走りになっていた。玄関のドアの前に立ち止まり、屋根を見上げた。
「……これ……」
手を伸ばした。触れたものは屋根に吊るされる沢山の球根だ。ネットの網に入れてあり、外で乾燥させていた。
見覚えのある赤いネット。
私がいつも使っていたものだ。私の父ちゃんは、花を植えることが好きだった。私がいつも喜ぶからと……。
「ん? それ、お前の所にあるヤツじゃない」
カカシも私の後ろに立ち、
球根に触れる。
「チューリップの球根でしょ?」
「うん……」
毎年恒例のように、花壇に植えてチューリップを咲かせていた。私は父ちゃんの花を引き継いで手入れをしていた。
チューリップの球根は、花が枯れたら、球根に栄養がすべていくまで放置する。そのあと、球根を取り出してネットの網に入れて、外で乾燥させると、翌年も花を咲かせることが出来るのだ。
「……なんで、ここに?」
私の家に吊るしていた球根が
ヤナギの実家にあるのだろうか。
カカシは玄関マットの下に手を入れ、鍵を取り出した。
「ヤナギの家はね、いつも鍵はここって決められていたけど、今も……とはね」
鍵を指でくるりと回し、カカシは玄関の鍵穴に入れた。鍵が開き、ガラガラと戸口のレールが走る音が無音の家に広がった。
「よし、行くよ」
靴を脱ぎ玄関を上がる。綺麗に掃除され、この家も片付けられていた。
「…うん」
カカシを追いかけるように、私も暗い廊下を真っ直ぐに歩いた。リビングに到着したとき。
机の上に置いてある物に目に入り、私は息を飲んだ。
「……っ、これ……」
手をそっと伸ばした。指先に触れた懐かしいキャラクターのアルバム。私の家に置いてあったものだ。父ちゃんと母ちゃんの位牌。30センチ四方の金庫も置いてある。全部私の家にあったものだ。