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違う、そうじゃないの

第1章 1


「あいしてる、」

 朝起きてから、ずーっと口の端からはみ出そうになってたこの一言は、帰り道でついにすべり落ちて、

「へ?」

 受け止めてもらえずにアスファルトに落っこちた。



「いきなりなに?」
「わからへん!」
「こっちからしたら、なんでそこで堂々としてるのかわかんないよ」

 早苗が、もともと下がってる眉毛をもっと下げた。
 金ちゃん今日はいつもよりもっとわかんない、とかぶつぶつ言うてる早苗の顔がめっちゃかわいい。

「そもそも、その、愛してるって。
 いつもは『めっちゃ好き』とか……」

 そんで、自分でツッコミ入れておいて、言うてる内容に自分で赤うなってる顔もめっちゃかわいい。



 思ったことそのまんま言うのって、何がアカンのかな?
 白石にも「なんも考えんと喋ったらアカンで」とか「話し始める前に『これ言うても大丈夫かな』って一回考えや」とか言われるんやけど、そんなん考える前に口動くやん?

 さっきのあいしてるなんか、ワイめっちゃ頑張ったやつやで?
 朝からずーっと言いたかったんやもん。
 ただ、みんなの前で言うたら早苗が恥ずかしいかな思て、

 ……あー。
 そういうこと?

「ね、金ちゃん。
 前から言ってるけど、そういうこと言う時はもうちょっとね、」
「わかったで!」
「え、何が!?」

 大声出したら早苗がなんか言いかけたの邪魔してもうた。堪忍な早苗。
 でもこれは、ちゃんと言わなアカンと思うねん。

「なぁ早苗、ワイな、やっと早苗や白石の言うてたことわかった気がするねん。
 考えて話せって、つまり相手がいやーな気分にならへんように気をつけろってことやんな?」

 ワイがわかったこと言うたら、早苗の顔がみるみる驚いてて嬉しい顔になった。

「金ちゃん……!!
 や、やっとわかってくれたんだね!?」

 目ぇなんか涙目や。
 うるうるしとってめっちゃかわいい。
 へへ、ワイのことで喜んどると思うとめっちゃ気分エエなぁ。

「うん、わかった!
 せやから、早苗がエエ気分になるようなことは言ってええんやろ?
 愛してるで、早苗ー!」

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