第9章 今夜の予定は?
翌日、再びエラリーに出勤する。
昨日も思ったけど、安室透の喫茶店での仕事っぷりは、完璧。非の打ち所のない人って本当にいるんだなと思う。
イケメンで、頭も冴えまくり、優しくて、ゼロにいるんならエリートなんだろうし。
それにキスやセックスも上手だし・・・
ふいに彼との色々を思い出してしまい、皿を洗う手が止まる。
「どうかしました?かおりさん」
「!?いえ・・・なにも?」
「顔赤いですよ?風邪かな・・・今日はもう上がりますか?」
そう言われ、手を額にあてがわれる。
「大丈夫です!」
「でも、少し熱はありそうだ」
「・・・ほんとに大丈夫です」
「そうですか・・・もし辛くなったらすぐ言ってくださいね!」
「はい、お気遣いありがとうございます・・・」
ランチタイ厶で使った大量の皿を洗い終え、安室さんの作ってくれたパスタを食べながらバックヤードで小休憩。
彼の作った料理はやっぱり美味しい。警察辞めても飲食業でやってけるんじゃないかってレベルだ。
スマホを確認すると、秀一さんからメッセージがあった。
“研究室でトラブルがあったので行ってきます。今日中には帰れなさそうなので、大学に泊まります”
いつ誰に見られても大丈夫なように、メッセージのやり取りにも、赤井秀一の痕跡は残さないようにしている。
つまり、このメッセージは、
“FBIとしての仕事があり、今日は帰れない”
という事になる。
「今日は夜ごはん無しか・・・」
思わず声に出た。今日は何か買って帰ろう。
「へえ・・・沖矢さん今日はいないんですか」
「安室さんっ!いつの間に」
「僕も今夜は空いてるんですよね・・・せっかくだから、どこか行きません?洋食か和食、どちらがいいです?」
「・・・今パスタ食べたばっかだし・・・和食ですかね」
答えてから気付く。流されてしまった。
「夜が楽しみですね。そろそろ休憩交代しましょうか」
しぶしぶ・・・と言った顔もしてられないので、笑顔を貼り付けて表に出る。
常連と思しき男性客の話相手をしながらも、頭の中で考えてるのは零のことで・・・
わたしの頭の中には、なんで断らなかったの・・・という自分と、零と出掛ける事を密かに楽しみにしている自分がいて・・・
そんな事、秀一さんには・・・言えない。