第3章 【政宗編】※R18
「次は、もっと気持ち良くしてやるからな」
「あ…」
政宗はその誓いを身体に刻みこむかのように、竜昌の胸元に何度も甘く吸い付いた。胸の痣のまわりに、まるで赤い花弁が散るようにいくつもの印がつけられていった。
─── ◇ ─── ◇ ───
…竜昌は夢を見ていた。
伊達家の屋敷で目覚めたあの時。
秋津城を失い、家臣たちを失い、もう城主でもなんでもない、一人の女としての竜昌は、自分の中がからっぽになったように感じていた。しかし、
『よお』
そう言って、政宗はからっぽの心の中にいきなりストンと入り込んできた。
それ以来、突然の生活の変化に戸惑う竜昌に手料理をふるまってくれたり、城内で孤立しないようにいつも気を配ってくれたり、唯一の接点だった剣術の稽古にも、嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれた政宗─────
頬にくすぐったい刺激を感じて、竜昌は目を覚ました。
目の前には政宗の夜着からのぞく逞しい胸。
政宗は片腕で頭を支え、慈しむような眼差しで竜昌を見ながら、もう片方の手で竜昌の頬をゆるゆると撫でていた。
「お前、笑ってた」
竜昌は恥ずかしそうに、政宗の顔を見上げた。
「…政宗様の夢を見ていましたから」
「どんな夢だった?」
「政宗様も笑っていらっしゃいました」
「そっか」
政宗がふわりと口許に笑みを浮かべる。気づけば安土での竜昌は、いつもこの笑顔に見守らていたのだ。
「不思議だな。初めて会ったときは、お互い敵同士だったのに」
「本当ですね」
二人で顔を見合わせて、クスクスと笑った。
竜昌は半身を起こし、政宗と視線をあわせた。
「…私も、未来に賭けてみたくなりました。私と政宗様のように、敵同士だった者が味方になるように、戦の世が平和になるように、少しでも次の世代に橋渡しを…」
政宗は頷いて、その大きな掌で竜昌の頭を撫でた。
「…じゃあ俺はもっと剣術に励まないとな?」
「?」
竜昌が不思議そうな顔をすると、
「だって、お前より強い男じゃないと、嫁には来てくれないんだろ?」
「ちがっ、あ、あれは…その…」
政宗は笑って、真っ赤になった竜昌の頬に手を添えると、その唇にそっと口づけた。
<第二部【政宗編】 完>