第17章 【信玄編・後編】※R18※
<信玄編・エピローグ>
謙信「まだ産まれんのか。はやくしろ。そして俺の手合わせの相手をしろ」
はちきれんばかりに大きくなった竜昌のお腹を見ながら、謙信は形のいい眉を片方だけ上げた。
佐助「謙信様、赤子は十月十日と決まっております。早く産まれてしまっては困ります」
謙信「ならお前が相手をしろ」
佐助「ええしてますね。毎日毎日、朝昼晩、月月火水木金金」
謙信「こらまて佐助───まあいい。竜昌、必ずや男子を産めよ。俺が鍛えてやる」
竜昌「まあ謙信様。女子とて剣の腕では負けませぬよ?」
謙信「ま…そうだな。どちらでもいい、元気な子を産め」
竜昌「はいっ!」
信玄「ゆ~き~甘いもの~」
幸村「お父さん、甘味はさっき食べたでしょ?」
信玄「名前考えるのに頭使いすぎて~」
幸村「往生際が悪い」
謙信「では、代わりに俺が考えてやる。だから俺の剣の相手をしろ」
信玄「うっ。持病の癪が…」
翌月、竜昌は玉のような男児を産んだ。
その子は、名付け親になった謙信から「玄王丸」の幼名をもらい、すくすくと成長していった。
やがて玄王丸が五つの齢になった頃、信玄と竜昌は、信長の許しを得て、甲州の躑躅ヶ崎館へと移り住んだ。そこで二人は、度重なる戦で疲弊していた甲州の復興に人生を捧げることとなる。
二人が躑躅ヶ崎館に戻った時、荒れ果てた屋敷の庭に、ぽつんと梅の木が残されていた。枝のほとんどが燃え落ち、枯れたかと思われていたが、ある日竜昌が、ほんの小さな枝に緑の新芽が出ているのを見つけた。
二人はその木を大切に育て、毎年 花が咲くのを楽しみにしていた、と伝承に残っている。
今や樹齢五百年をゆうに超えるその梅の木は、今も躑躅ヶ崎館跡で、五百年前と変わらぬ 芳しい花を毎年咲かせているという。
【人はいさこころも知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける】
<エピローグ 完>