第2章 望月の夜
「なぁ、ほんとにいいのか?」
一人月を眺めながら、自暴自棄になって酒をあおっていると、聞き慣れた声がした。
『何が?お兄~ちゃん』
後ろを振り返ると、自分と似た顔の彼は嫌そうに眉をひそめた。
「お兄ちゃんはやめろ、気持ち悪い。それから酒飲むのやめろ。迷惑こうむるのは俺なんだよ。怪我人は大人しく寝てろ」
そう言って、わたしから盃を取り上げる。
『ひどいなぁ、可愛い妹にむかって』
「自分で可愛いっていうなよ。酔ってんじゃねーか。それよりほんとにいいのかって聞いてるんだ」
『だから、なにが~ぁ?』
「誤魔化すな。〝あの人〟のことだよ」
隣に座った彼は珍しく怒っていた。
私にはあまり怒らない彼が、ここまで怒りを表していることに少し驚きながらも、笑みを浮かべる。
『だってしょうがないじゃん。巻き込むわけには行かないんだから』
「あの人は気にしないと思うぞ」
『そういうことじゃない。私が〝あの人〟を巻き込みたくないの』
間髪入れずにそう言うと、彼はしょうがないとでも言うようにため息をついた。
「ったく...まぁ、お前の決めたことなら俺は何も言わねぇよ」
彼は私から取り上げた盃に酒をつぐと、一気にあおり、立ち上がった。
「後悔はするなよ」
そう言い残し、私の頭を軽く叩くと、自分の部屋へと戻っていった。それを見届け、もう一度月を眺める。